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大将は七段

今川 直明さん


昭和35年8月23日生まれ
埼玉県出身
群馬県立前橋商業高等学校教諭

冷静に考えれば失礼な話だ。
薄く細いツテをたどってようやく彼に辿り着いた。
取材を快く受け入れてくれたものの現場に現れた一行を見るなり、素人相手に話す事は無いといったふう。どこぞの誰がしかわからない奴らが、柔道について、今川直明について、公私にわたり根ほり葉ほり聞くのだから、まぁ無理もない。


その日は前橋商業高校で、近隣の中学校を招いての夜間練習日。生徒達の貴重な練習時間を切り取ってしまったことや、無遠慮にフラッシュをたきながら道場内をうろうろと写真を撮りまくる我々一行を、子どものお遊び程度に思っていたのだろう。彼の華々しい経歴と揺るぎない実績を鑑みれば、それもまた仕方のないこと。

用意した質問にひとつふたつと丁寧に答え、カメラに向かってポーズ!型通りの取材を自ら終えようとする。一度引き受けたからには相応の礼を尽くす。これも柔らの道か?とはいえ、せっかく辿り着いた縁だもの、そう易々と引き下がるわけにはいかない。どう思われようと、今川直明をあきらめるわけにはいかない。



少年野球 → 甲子園 → プロ野球選手
男の子なら、或いは男の子を持つ親ならば(近年女の子も然り)一度は夢見る図式である。長嶋世代最後の今川少年も中学校に入学して選んだ部活動は、やはり野球部。そして大活躍したのは、柔道部ッ! んッ!?
入学後の身体計測で柔道部の顧問(当時)にスカウトされる。
今川直明物語の始まりである。
珠玉の原石を見つけだした顧問の眼力は素晴らしいの一言に尽きる。と同時に、あっさり柔道部入部を決めた彼の決断力は見事としか言いようがない。何迷うことなく、振り返ることなく柔らの道を進む。指導者にめぐまれ、仲間にめぐまれ、また自身の身体能力にめぐまれ、全中(全国中学校柔道大会団体)で準優勝となる。
準優勝・・2位・・頂点ではなく、頂点に手が届きそうな位置というのはどうもいけない。
やめられないとまらないスナック菓子の様。いや、あたりめが奥歯のどっかにひっかかってとれない様。いやいや、何かにつけて禁煙を決意してあっさりくじける様。はてさて、とにかく気持ちの悪いものだ。すっきりさせるために(?)高校進学にあたっては柔道を最優先に考えた。良い指導者と強いチーム作りに定評のある埼玉県立大宮工業高校へと進学する。そして、後のロサンゼルスオリンピック(1984年)・ソウルオリンピック(1988年)の金メダリストである、あの斉藤仁を破りインターハイ優勝を果たす。(ぁ〜すっきりした!?)そのフラッグを掲げ名門国士舘大学へと進む。全国から選りすぐりの強者どもが集まる。インターハイで戦った、あの斉藤仁も国士舘の門を叩いていた。見据えるのは世界の頂点!
今川直明物語ヤマ場をむかえる。

いつしか少年から青年となった彼は、どうしても欲しかったタイトル全日本(全日本学生体重別大会)に目標を置く。そのための努力は充分過ぎる程した。辛いのが当たり前。きついのが当たり前。その覚悟はあったものの、やはり見ると聞くとでは大分違う。
当時は何処の大学でも、いわゆる体育会系は上下関係が厳しく、一年生は人間扱いされないとか。(!?)一人のヘマが即、連帯責任となる。現在では理解し難い(私だけが理解できないのかもしれない)不思議な序列の中で柔道をするのだから身も心も安まることはなかったろう。彼はこの国士舘時代を『人生の中で一番柔道をした時』と位置づける。

全日本学生体重別大会    (95s超級)    優勝
全日本学生選手権大会         2位(2年連続)
東ドイツ国際大会    (95s超級)    5位
クウェート国際大会    (95s超級・無差別級)    優勝

他、多数のタイトルを手にする。
国体(国民体育大会)は9回の出場を果たす。

私の狭い知見では、これ以上先を語るのはとても許されないことだろうが、そこをあえて語ってみる。
群馬で教員の道を歩む。今では良き指導者として県内では知らない人はいない。柔少年達は彼の技を求めて、彼の指導を求めて遠方よりやってくる。

竹澤稔裕もその中の一人だ。彼の指導のもと尾島中学から前橋商業、筑波大学へと進み世界ジュニア選手権で優勝を果たしている。
当時を振り返り「良い生徒に出会えたんだ」と、決して傲らない。「目の輝きが違っていた」と竹澤を評する。そして、「今年はたのしみな生徒が入りました」とうれしそうに初めて笑顔になった。次の瞬間「期待してください」とすぐさま笑顔を打ち消す。
彼の中の何かが大きく動き始めているのを感じた。と同時に、まだまだ今川直明物語は終わらないと確信した。

Q:もし、一度だけあの日あの時に戻れるとしたら、どこからやり直したいですか?
    「・・ないです。充分やりました。」
Q:選手として心残りはありませんか?
    「・・ないです。本当に充分やりました。」

聞きたいことはいっぱいあった。
たとえば、教師の目から見た今の子どもと昔の子どもの違い。競技者として指導者としての柔道に対する考え方の違い。家族の事や休日の過ごし方。好物や好きなタレント。奥様との馴れ初めもはずせないと思っていた。でも、人格者ではあるけれど、とことんシャイな彼のためにも遠慮してしまった。ライターとしては失格かもしれない。キッとした眼孔で見据えられると背筋がぞくっとする。喉元まで出かかった言葉を飲み込むしかない。訳もなく「すいません」と謝ってしまいそうだ。もう、失礼はここまでにしよう。
薄く細井ツテがロープくらい太くなったら、美味しい焼酎でも飲みながら物語の続きを聞くことにしよう。

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