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日本の伝統工芸士 伊勢崎絣 染色部門

松本 品蔵さん

1988年  染色部門伝統工芸士認定
2004年  瑞宝章授与

「いろんな事情でやめていった人の代表として、今があると思ってます。」


「うまく話せないんだけど。」
開口一番謙遜する。
仏頂面した頑固じいさんを職人の代名詞のように表するが、松本さんは違う。
ゆったりとした口調で丁寧に伊勢崎絣を語る。
「絣には、板締め絣・併用絣・緯総絣・括り絣の4種類があるんですけど、伊勢崎の主流は括り絣だったから自然とこの仕事に入りました。始めたきっかけなんてそんなもんですよ。とくに豊受地区は伊勢崎の中でも一番盛んな土地だったから、当たり前のように絣の仕事に就きました。」

糸は生きていると言う。
雨が降ったり、湿度の高い6月頃は、糸が水分を含んで図案通りに括れない日が続く。常に天気と糸と相談しながらの仕事になる。 30メートルもある糸をピンと張り、模様となる部分を捺染棒という道具を使って染色していく。捺染棒も松本さんの手作りだ。染料は酢酸を含んでいて、ツンと鼻に付く。作業は一見、単純作業のように見えるが、注文通りの色や模様を作り出すにはアーテイストでなければならない。
優れた感性と表現力、寸分違わぬ染色と括り、妥協を許さない。

奥さんと二人三脚で伝統を守っている。
「この仕事をやってて良かったことは、いつも二人一緒にいられた事ぐらいかな?・・サラリーマンがうらやましく思った事もあったけどね。(笑)」と夫婦して笑う。
「女房が良くやってくれました。孫二人の世話をしながら、仕事もこなしてくれて。きっと、一人じゃ瑞宝章はもらえなかったでしょうね。本当に良くやってくれまいた。」
と奥さんへの感謝を忘れない。

   ♪ かすり伊勢崎手織りの里よ
         かかあ天下も自慢のひとつ
            女房いなけりゃ夜も日も明けぬ ♪

と、正調 八木節音頭に唄われるほど、上州のかかあは夫のため家族のためには労をおしまない。まさに、上州を代表するお手本のような夫婦だ。

『娘三人いれば蔵が建つ』と言われた絣黄金期を知る松本さんは言う。
「括り絣の職人は現在5人。そのうち伝統工芸士は3人。みんな70歳以上です。私は若い方です。他の織物産地は機械化が進んで、どうにか技を守っているけど、伊勢崎絣は手織りの伝統を機械には渡さなかったんです。熟練された職人が紡ぐ独特の風合いと柄を大切にしてきた、反面、職人の育成がうまくいかなかったですね。後継者が育たないというよりも、いないんです。なり手がいないんです。70歳以上の職人ばかりですよ。考えてみて下さい。あと何年続きますか?」 淋しそうに遠くを見つめる。
今からでも弟子入りしたいと言う人が現れたら、受け入れますか?と意地悪な質問をしてみる。
「いません。いないです。」
きっぱり。
「いませんか?」
更に意地悪く聞いてみる。
「う〜ん・・  ・・昭和28年に括りの指導者として長井市に行ったことがあるんです。2年間の契約で行ってました。その時、市内一番の高給取りだったんですよ。(笑)50年以上絣の仕事をしていて、たった2年間だけ。(笑)これから絣をやってみようって思う人が現れない訳は、そのへんの事情でしょ?。」
市長に公用車のない時でも織物組合長には黒塗りの専用車があった時代を知っている一人としてもあえて息子さんにも職人技を譲ることをしなかった。

間違いなく近い将来、伊勢崎絣はその姿を消していく。
括り絣には15もの行程がある。それぞれの行程毎に職人がいる。15人の職人の誇りと心意気が伊勢崎絣をつくり上げる。そのうちの一人でも欠けたら終わりを迎える。
「職人と言われるけど、自分ではそんなふうには思っていないんです。いろんな事情でやめていった人の代表として、今があると思ってます。」
職人は最後まで謙虚であった。
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