区間をまかされた孤独なランナーの心には、闘争神と自制心がぶつかり合う。
「前集団の中継車が見えた。あそこまで寄れるか。いや、寄るんだ。第三に渡すために...」
ランナーの闘争神が自制心に打ち勝った瞬間に、駅伝のドラマが始まる。
「ここだ、もう少しだ。そうだ、こっちだ...」
一秒が何百秒にも感じてしまう、もどかしい瞬間。 近づく自分のチームのたすきが、他よりも遅く感じる。
麻痺してしまった、時間の感覚。
「だから、自分は走りたいんだ。自分の時間を取り戻すために...」
「あと20m、15、10、8、5、3...」 「GO、GO、GO」
足音が迫ってくる。 あの、カリウキ?
チームオーダーは?オーダーは...
四区へは、あと何歩だろう。 解っていても、怯む感触。
沿道の応援は、 皮肉にも、後続とのタイム差をリアルに教えてくれる。 このままで、七区でいけるのか。それとも... とにかく、たすきをつなぐんだ。
五区には、伊藤の劇的ごぼう抜きもあった。
でも、ここからは、俺の仕事。
ゴールへ持っていくたすきが重い。
最終区に任された、責務の重圧。
もつれて、受け取った、たすきの重さが、
それを物語る。
ゴールへ、日本一へ
最終区には、駆け引きなど無い。 真っ先にゴールに飛び込む、それだけ。
自分ひとりじゃ勝ち取れない「日本一」。
六区の尾崎選手からのたすきが、これほど重いものとは思わなかった。あとは勝つだけ。
前へ、前へ、前へ、前へ、 テープだ、あそこへ、あそこへ、あそこへ、あそこへ、 その時、 背中を押してくれる、アイツラを感じた。