成果や結果、人生にさえ優劣評価を強いられる、 世知辛い日常には、 時として、こんな息抜き小旅行も必要なんだ、と、思わせる 妙義の奇勝とその紅葉。
都心から1時間30分ほどの、My Favoriteな紅葉スポットをご紹介しよう。 一歩離れて、そそり立つ岩肌と紅葉の織り成す景色を眺めるも良し、 軽装を準備して、3時間程のコースを巡るも良し、 時間と体力にあった楽しみ方が出来る。
やがて鉄道による大量輸送の時代が到来。 「母さん、僕のあの帽子どうしたでしょうね。ええ、夏。碓氷峠から霧積へ行くみちで 渓谷へ落としたあの麦藁帽ですよ(人間の証明:森村誠一)」
信越線の横川〜軽井沢間が閉鎖されるや、“峠の旅”の風情は、しばらく人の記憶から遠退いているのかもしれない。
碓氷湖(坂本ダム)駐車場付近から、対岸(西)方角。緑部分は朝日による陰。2006.11.10
今、私は、当時の人が車窓から眺めた紅葉の景色や、トンネルの中を歩いている。 トンネルの中に進むと、心なしか、石炭の煤けた匂いがしてくるようで、不思議だ。
この区間は、900m以上の勾配を一気に駆け上がる。機関車の煙の向うの、トンネルの出口に広がった突然の紅葉は、どんな風に見えたのだろう...。 「あっ、秋だ。お母さん、見て。秋だよ、秋。綺麗だなぁ。真っ赤だよ。窓、開けてもいい?」
周囲を山の稜線に囲まれている為、朝夕は対抗側にその稜線の陰が映り、コントラストが妙美。 また、比較的、天候が安定している為、水面に映る月や星が綺麗。流星群などの天体観測スポットにもなっている。 そして、なによりも、周遊の遊歩道が素敵なこと。四季は問わないが、例えば紅葉の季節、朝焼けの中を一人で周遊しながら満喫して欲しい。次の時は必ず、大切なあの人を連れてきたくなるだろう。
遊歩道も、いよいよ終盤。めがね橋に到着。 トンネルを抜けた瞬間、まるで、背後から大きな自然が覆い被さるようなほどの、紅葉の渦潮。 振り返ると、まるで、煉瓦の鉄橋を飲み込むようだ。思わず、圧されるように早足になってしまう。
歩いている間中、脳裏に繰り返し映るのは、映画(「人間の証明」)で観たワンシーン。まるで、自分の納まる所を知って居るように舞って落ちていく麦藁帽子。 「そうだ。帰りながらビデオ屋に寄って借りて、家内と二人で観よう・・・。松田優ちゃん、懐かしいな」 思いがけず、久しぶりの夫婦のひとときを、あれこれ、思い巡らしながら、帰路のハンドルを握る。