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竹久夢二が描きたかったのは、
当時の女性が感じていた生活の喜びや悲しみ。

そして土屋文明が詠みたかった、芥川龍之介にも影響を与えたともいわれる刹那的・即物的描写で「アララギ」に代表される短歌。

そんな明治から昭和までの切ない絵画と詩のコラボレーション、
そして美味しい逸品をちょびっとナビゲート。

現在でも、女性の心をつかんで止まない竹久夢二。
最近では、特に若い女性の間でも、そのファン層をひろげている。と、妻に教えられた。どうやら仕事仲間の友人から感化されたらしい。竹久夢二伊香保記念館に行きたいと、目が訴えている。

さらに付け加えるように、妻は言う。竹久夢二を知る人は、夢二のことを”夢二さん”って呼ぶらしい。
花々しい受賞や名誉を一切排他し、ある意味アウトロー的な、独特の芸術家人生、と言うより、彼の個たる人生観や作品に対して共感する意味で、ファンは”夢二さん”と呼んでいるのだ。と。

そういえば私にも、あったなぁ。と、古い記憶が蘇る。
あれは高校時代。母校の先輩で、17歳でエレクトリックギターで感電死された、山田かまち先輩。
実際に会ったことのない先輩に、”先輩”の呼称を付けたくなる気持ちと似たものがあるのだろうと、ふと思う。

私はといえば、祖父の影響も有ってか、絵よりも短歌が好き。読んで伝わるリズムが心地よい。どこか埃の匂いのしそうな、あの雰囲気もたまらない。
そういえば、県内にあるのに、土屋文明記念館も、しばらく行っていない。

それじゃあと言うことで、今回は妻に誘われるまま、のんびり”夢二さん”の記念館と、土屋文明記念文学館を回ってみる。

JR高崎駅で駅弁を買い込む。妻はだるま弁当、私は鳥めし
鳥めしは、正確には駅弁では無いらしい。私の中ではトリビアだった。
甘しょっぱいタレが染み込んで敷き詰められた鶏肉をめくると、程よくタレの移ったご飯が顔をみせる。このご飯と漬物が、また絶妙なのだ。私はいつも、上品には食べられず、かきこんでしまう。

JR渋川駅までは30分足らず。舌鼓を打つうちに着いてしまった。

JR渋川駅からは、関越交通の路線バス「伊香保温泉行き」に乗車。
20分程だろうか、「見晴下」のバス停で下車。坂道を下るとすぐ竹久夢二伊香保記念館。翠深い杜の中に、「夢二記念館」「夢二黒船館」「音のテーマ館」が建っている。
一歩足を踏み入れただけで、別世界に迷い込んだ感がある。

「大正ロマン夢の館」は、”夢二さん”の作品を二ヶ月毎に展示内容を替えているという。しかもレプリカは一つもないとのこと。ものすごい蔵書の数だ。

代表作「黒船屋」にちなんだ「夢二黒船館」では、当時の器やあかり、人形など、大正ロマンを満喫した。

竹久夢二と聞いて、これまで「宵待草」くらいしか思い出さない私だったが、此処を訪ねて、現代でも女性がファンになることを納得した。

別館「音のテーマ館」では、100年以上前の欧米のアンティークオルゴールの演奏を、20分おきに聞かせてくれる。
”夢二さん”と同じ時代の音色が心地よい。
アンプもスピーカも通さない、アコースティックな音色は、耳でなく心に響く。その音色に妻も同じように酔いしれたようだ。

3時間近く居たのだろうか。
この森の中にいると、まるで、のっぽの古時計の振り子が、何秒も掛けて、ゆ〜っくり往復するように、まったりと時間が過ぎていく。

だが、腹時計って奴は、実に正確だ。ゼンマイも巻かないのに、確実にグウグウ鳴り出す。
竹久夢二伊香保記念館を出た右側は、清芳亭の湯の花饅頭。あの、蒸かしたてのホクホクの皮と、上顎と舌をやけどさせるアンコの感触まで、思い出させる。たまらず買い求めて、案の定、やけど。

伊香保の泉質には鉄分が多く、源泉では赤茶けた錆色の「湯の花」がみられる。「湯の花饅頭」の名前の由来も、皮の色が似ているためだ。

地元がら、伊香保温泉を利用する機会は多い。あちらこちら泊まっていると、個々のホテルの印象は麻痺してくる。
そんな中で、いつまでも心に残る宿がある。
お宿玉樹。廊下も畳敷きで、客室とは敷居で仕切られるだけ。部屋に入るのに段差は無い。青畳の廊下をはだしで歩けるのはうれしい。
それ以上に、いやみの無いもてなしと演出に、ゆったりとくつろげる。まさに女性向な宿。
妻も満足の様子。10年ほど前に泊ったのを想い出し、ここを選んで正解だった。
翌日は、ゆっくり出発。
車を拾い、「群馬県立土屋文明記念文学館」へ。生家のあったすぐ近くに建てられている。隣接する「上毛野はにわの里公園」の古墳をイメージしたという、ドーム型の文学館の建物。
車をおり館へ歩く間にも、文明や山村暮鳥の詩碑などがある。
常設展示のコーナーには、文明の生立ちから「ふゆくさ」「アララギ」「万葉集」といったテーマで展示がされていて、とても判りやすい。一角には、当時の書斎も再現されている。

もう一つ押さえておきたいのが、文学館二階にある「レストラン野花(のか)」。ピザとスパゲティが美味しい。
天気の良い日はガラス張りの壁から、赤城、榛名、浅間、妙義、遠くは八ヶ岳まで、山々を一望しながら楽しい食事が楽しめる。

日頃それぞれ仕事や家事に追われ、殺伐とした暮らしをしていると、こうしたのんびりとした小旅行はなんともうれしい。リフレッシュとはこういうものかと、つくづく感じる。妻との会話の時間もありがたい。気が付いたら、帰路のバスの中で、次はどこに行こうか相談していた。家に着けば、いつもの生活に戻る。
はこべらはいまだ芽生えて稚きを 地にはふごとく花咲かすなり (『ふゆくさ』より)
 大正ロマンの森の中に点在する様々な施設のすべてに、いま私たちの周辺から姿を消そうとしている美しいものが散りばめられていることをご覧ください。大正の音色、大正の灯、夢二の時代のロマンの香りをお楽しみいただければ幸いに存じます。
DATA
竹久夢二伊香保記念館
【TEL】 0279-72-4788
【休館日】無休
【URL】 http://www.yumeji.or.jp/

あつあつのご飯の上に薄くスライスした鶏肉をのせ、登利平自慢の「たれ」をまんべんなくまぶして召し上がる・・・。
ひとたび口に入れればお肉のやわらかさと、まろやかでコクのある「たれ」が調和して、上州の香りが味わえるこの一品。
JR高崎駅ビル・モントレー五階にも入っている。

DATA
【住所】高崎市八島町222 5F(高崎モントレー店)
【TEL】027-330-5454
【食事】11:00〜21:00 【持帰】10:00〜21:00
【URL】http://www.torihei.co.jp/
 玄関を入り、清々しい廊下を行くと目の前に庭が広がる。
庭を眺めながらラウンジコーヒーやお酒を楽しむもよし、湯上がりには月見台で風にあたるもよし。
お酒ギャラリーで旨そうな地酒をチェックしたりお土産コーナーで地元の民芸品などを見てまわるも一興。
鉄瓦にいつも沸いている湯で美味しいお茶を一服。

DATA
お宿 玉樹
【住所】〒377-0102 群馬県北群馬郡伊香保町87-2
【TEL】 0120-418-054
【URL】 http://www.oyado-tamaki.com

アララギ派の歌人として万葉集の研究者として、大きな業績を残した土屋文明。窓外に目をやれば、歌人の感性を育んだ原風景が広がります。展示では、100年にわたる文明の生涯を「ひとすじの道」としてたどり、その生涯と作品、関係の文学者などを時代を追って紹介します。

DATA
【住所】〒370-3533 高崎市保渡田町2000
【TEL】027-373-7721
【休館日】火曜日(祝日の場合は翌日) 年始年末(12月29日〜1月3日)
【URL】http://www.bungaku.pref.gunma.jp/
あんは十勝産の小豆を厳選してこしあんに仕立て、皮は黒砂糖が入ってしっとり。まろやかで上品な甘味と風味が溶け合って、ついつい数を重ねてしまうおいしさだ。製造所は店舗のすぐ隣。湯気の立つ熱あつが次々と店に運びこまれている。
出来たてが手に入るのでみやげにも安心。

DATA
清芳亭
【住所】〒377-0102 群馬県北群馬郡伊香保町544-38
【TEL】 0279-20-3939
【営業】7:00〜19:00 無休
【URL】http://www.ame.ne.jp/seihoutei
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